思春期の虎の巻[第三回] 十四歳・一 「後輩が出来た 縦関係の歪んだ罠」
2018.08.10
そうして私も中学二年生になりました。
勉強も少しずつ難しくなってきます。
友達から、恋の打ち明け話をされたりして、本格的に青春時代がやって来ました。
しかし、私の一番の関心は、初めて後輩を持つという事につきました。
「先輩」と呼ばれる事にくすぐったい想いを抱きながら。
何とも鼻高々な気分でした。
私たち演劇部は一年毎に、部員の多い学年、少ない学年、また多い学年とどうゆうわけか、規則的に繰り返していました。
私のいる二年生は四人。
大人しい羽田さん(仮)感情的な米田さん(仮)ユニークな三木さん(仮)と私です。
三年生は十五人。その年の一年生は十二人でした。
それまでに、先輩たちには理不尽な事もいっぱいされて来ました。
正座、腹筋百回、教育という名のつるし上げ。
他の同級生は陰で文句を言いました。
何人かは部活を辞めていき、最終的に四人になりましたが、私は先輩とはそうゆうものだと思っていました。
しごかれても、上下関係にうっとりしていたのです。
服従するのが美しい事だとすら思っていました。
だから、後輩が出来た時にはこう考えました。
(先輩たちと同じ様に振る舞おう。時任先輩みたいになりたい)
時任先輩(仮)とは部長で一番怖い先輩でした。
そして私が心酔していた人です。
私は尊敬されたかった。
先輩たちの様に、畏怖されるくらいに。まったく馬鹿者でした。
一年生の指導は二年生に任されていました。
「私たちには、きちんと敬語を使って」
私は得意満面でそう言いました。
「私たちも同じようにしてきたんだから」と。
自分がされて嫌な事はしないこと。
自分たちの代で正して後輩を守ること。
それが本当なのに、間違った感覚で先輩たちを見ていた私は、一年生を苦しめていることに気付きもしなかったのでした。
力が欲しかった。未熟な俗物、それが私でした。
しっぺ返しはすぐに来ました。
放課後の部活の時間、私たち二年生は十五人の三年生にぐるりと囲まれました。
「私の妹を苛めたら承知しないわよ」
野崎先輩(仮)が口火を切りました。
そうです。
一年生の中には野崎先輩と、あの時任先輩の妹がいたのでした。
一年生は道理に合わないことをお姉さんたちに訴えたようでした。
そうして「教育の時間」が始まりました。
ことに一番派手に振る舞っていた私は集中砲火を浴びました。
その日は泣くまでいびられました。
泣くまで先輩たちは許してくれませんでした。
一年生たちは部室の隅で、気まずそうにこちらを見ていました。
その中には「ざまあみろ」と呟いた子がいたのも事実でしたが……。
でも、私は一度も演劇部OGの姉に、先輩たちの所業を言いつけたりしなかった。
先輩、私たちは先輩と同じことをしたんですよ。
私はそう言いたかった。
泣きながら混乱していました。
それなら、どう振る舞えばいいんだろう。
予想外の展開に自信は縮んでいきました。
幼少期からその傾向があったのですが、顕著になった事があります。
年下に接するときに身構えてしまう。
今でもです。それが、この時から強化されていったようでした。
「教育の時間」は一回ではすみませんでした。
三年生が卒業するまで何度もありました。
私たち二年生が、すぐに新しい態度を身に付けられなかったからです。
何と言っても先輩たちは数が多かった。数による暴力は私を縮みあがらせました。
中には優しい先輩もいました。
彼女たちはこのつるし上げに反発を感じたのか、次第に部活に来なくなりました。
「教育の時間」の時、涙ぐんでいた人もいます。
ああ、彼女たちをこそ部長に選べば良かったのに。
そうすれば、演劇部は歪んだ上下関係から解放されていたかもしれません。
力に惑わされて……私たちは人を見る目が無かった。今更ながら思います。
それでも、何ということでしょう。私はその後も、時任先輩を尊敬し続けたのでした。
私は幼児の頃から自信が無く、他者の攻撃を恐れていました。
ほとんど反発した記憶もありません。
十代を迎え、自分で考えることを覚えだした頃から、次第に自罰的になって行きました。
それが自らはまった精神の罠でした。
『もう駄目だ。私は最悪の人間だ』
この考えは私の頭を満たしていきました。
次第に自己否定はエスカレートして行くことになります。
そう、認知行動療法のいう「歪んだ認知」に心はからめとられて行ったのです。
認知行動療法は、『私は最悪の人間だ』という自分を苛める考え方を、『私はできないこともあるけれど、一生懸命物事に取り組むことができる。一生懸命物事に取り組める自分を自分で肯定的に認めよう』とバランスの取れた健全な考え方へと変えてくれる心理学です。
今でもくよくよ考えてしまいがちな私は、現在セルフケアに役立てています。
あなたも「自分を許す」方法を身に着けてみませんか?
(森詩子)
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